エリート上司の甘く危険な独占欲
 考え直して、という華奈の言葉に、柊一郎の言葉が被さる。

「やっぱり付き合う女と結婚する女は別だよ。華奈みたいに派手で目立つ軽い女じゃなく、控えめで俺を立ててくれるような女でなきゃ。なんてったって俺はフィーカの幹部候補だからな」

 柊一郎の口調に嘲りすら感じられて、颯真は怒りで体が熱くなるのを感じた。人に対してここまでの憤りを覚えたのは初めてだ。

(なんて男だ)

 柊一郎は華奈の耳元に顔を近づけてなにか言った。話の内容は颯真には聞こえなかったが、顔を背ける彼女の仕草から、おそらく「会社ではこれまで通りでいよう」とかなんとか言ったのだろう。

「それじゃあな」

 柊一郎の靴音が遠ざかり、やがてドアが開いて閉まる音がした。その瞬間、華奈の目から涙がこぼれ、カウンターにポタポタと落ちた。

 必死に唇を噛みしめ、涙をこらえようとする横顔が、あまりに痛々しい。本物の悲しみを目にして、どうにかしてやりたくなる。

 颯真はバーテンダーに合図をした。
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