エリート上司の甘く危険な独占欲
 箱を投げると、小さな水音を立てて海の中に消えた。

「ふんだ」

 満足して両手をパンパンと払い、階段へと戻りかけた。その目に、『ゴミを捨てないでください』と書かれた立て看板が映る。

「え~……」

 柊一郎にもらったものを海の藻屑にしてやろうと思ったのだが、どうやらそれはしてはいけないことだったようだ。

 華菜はため息をついて、気持ち的にはゴミになった小箱を回収するため、海に向かって足を踏み出した。さすがに海水は冷たくて鳥肌が立つ。

(確か……あの辺……)

 華菜は小箱が落ちた辺りを目指して進んだ。そこはちょうど膝下くらいの深さで、華菜は腕まくりをして海水に両手を入れた。小箱を探して手を前後左右に動かすが、それらしきものは手に触れない。

「えー、もう、どこよぅ……」

 華菜は情けない気持ちになりながら、大理石の底を探った。だが、見つからない。小箱はどこか違うところに落ちたか、波にさらわれたか……。

(嘘ぉ……)

 夜風に吹かれたせいで、酔いがずいぶんと醒め、バカなことをした、と後悔した。どうしていいかわからず、これ以上ない惨めな気持ちでその場に立ち尽くす。
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