エリート上司の甘く危険な独占欲
 そのとき、背後から波を蹴立てる音が聞こえてきた。

「なにやってるっ!」

 振り返る間もなく男性の怒鳴り声がして、いきなり後ろから抱きすくめられた。

「えっ」

 海の真ん中で知らない男性に抱きつかれた!

(痴漢? 変態!?)

 華奈はパニックになりかけ、胸の前で交差している男性の腕に爪を立てた。

「離してっ」

 華奈の抵抗を受けて、背後の男性は華奈を抱きしめる腕にますます力を込める。

「佐脇なんかのために死ぬな!」

 耳元で男性に怒鳴られ、華奈はその言葉に違和感を覚えた。

(佐脇?)

 聞き覚えのある名前に、聞き覚えのある声だ。華菜は男性の腕を掴んだまま、首をねじって背後を見た。肩のすぐ上に、必死の形相をした颯真の顔がある。

「川村主任、キミはまだ若い。あんな……キミのことをなにもわかっていない男に振られたくらいで、人生を終わらせるな」

 体に回された颯真の腕に力が込められ、痛いくらいだ。

(もしかして、死のうとしてると思われた?)

「あの」
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