エリート上司の甘く危険な独占欲
 颯真が廊下の右手を示した。彼に続いて入ると、そこは白い洗面台と大きな鏡のある脱衣所だった。奥の磨りガラスのドアの向こうがバスルームらしい。

「ここにタオルとバスローブがあるから使うとい」

 颯真が言って、脱衣所にある背の高い棚を軽く叩いた。

「ありがとうございます。あの、部長からどうぞ」
「なに言ってる。レディ・ファーストだよ」
「でも、部長の部屋ですから」

 華奈が恐縮して言うと、颯真が小さく息を吐いた。

「風邪引いたらどうするんだ」
「それは部長も同じです」
「強情だな。上司の厚意は素直に受け取れ」
「今は就業時間外です」

 颯真は腕を組んで華奈をじぃっと見た。その視線があまりにまっすぐなので、華奈は彼の視線から逃れるように瞬きをした。

 颯真がゆっくりと口を開く。

「それなら……一緒に浴びる?」
「えっ」

 冗談だろう、と思って華奈が颯真を見返すと、彼は片方の口角を小さく上げて、笑みをこぼした。腕を伸ばして、華奈のすぐ横にある戸柱に左手をつく。
< 27 / 161 >

この作品をシェア

pagetop