エリート上司の甘く危険な独占欲
「今日は……キミの意外な一面をたくさん見たよ」
「えっ……あー……」

 華奈はバツが悪い思いで視線を落とした。バーで柊一郎に振られたところから始まって、海でずぶ濡れになっているところまで、確かに今日は情けないところばかりを彼に見られた気がする。

「ホント……みっともないですよね」
「そんなことは思っていない」

 颯真が右手を伸ばして、華奈の頬にそっと触れた。華奈はびくりと肩を震わせる。

「いつも率先して仕事をこなすしっかりした女性だと思ってたから……キミの泣き顔や困った顔は、意外だった」

 彼の手が頬から顎へと滑り降り、そっと顎を持ち上げられた。華奈のすぐ目の前に、颯真の顔がある。少し眉を寄せて……苦しそうにも悩んでいるようにも見える。

 この表情こそ意外だ。

「キミのいろんな顔を……もっと見たい」

 彼の二重の瞳に熱情が灯り、華奈は小さく息をのんだ。

(失恋したばっかりなのに、ほかの男性とこんなこと、ダメだよ)
(いいじゃん、もうフリーなんだから、慣れた大人の男性の誘いに流されてみるのも)
(でも、そんなことをしたら、柊一郎さんの言う、まさに『派手』な『軽い女』になっちゃう)
(もう関係ないよ、柊一郎さんのことなんか)
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