エリート上司の甘く危険な独占欲
 心の中で二人の自分が葛藤をする。

 結論を出せないまま颯真を見ると、彼と視線が絡まった。会社では見たことのない、誘うような色気に満ちた表情だ。

「拒むなら、俺が自制できる今のうちにしろ」

 柊一郎曰く、華奈は『結婚相手には向いていない』のだそうだ。結婚して家族が増えて幸せな家庭を築く……そんなことを夢見ていたのに、柊一郎に否定された。

(部長も私が経験豊富だって思っているんだろうか)

 そんな思いが脳裏をかすめた。

「幻滅、しちゃうかもしれませんよ」

 華奈はささやくようにつぶやいた。

「俺を見くびるなよ」
「そんな……こと」

 この大人の余裕に、どう抗えというのか。

 その気持ちのまま彼を見上げると、彼が眉をわずかに寄せた。

「ちょっと困ったような……かわいい顔だ」

 艶めいた声でささやかれて、彼が華奈に感じている熱情が伝わってくる。彼にとって特別な存在になったような気さえする。
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