エリート上司の甘く危険な独占欲
「俺がオフィスに戻ったら誰もいなかった。誰もいないオフィスで、二人きりでなにをやってたんだろうな」

 この上司はいったいなにを想像しているのか。華奈は事実を述べる。

「話をしていました」
「信じられないね」

 柊一郎はニヤッと笑ってゆっくりと立ち上がった。

「あの軟派な一之瀬部長と華奈だ。二人きりだったってのに、神聖なオフィスを汚すようないかがわしい行為をしていなかったなんて、いったい誰が信じる?」
「本当に話をしていただけで、ほかにはなにもありませんでした」

 華奈は語気を強めたが、柊一郎のニヤニヤ笑いが大きくなった。

「なにもなかったら、一之瀬部長がおまえをあそこまでかばうはずがない」
「なにかあったとしても、一之瀬部長は私をかばったわけではありません。責任者が課長だったという客観的事実を指摘しただけです」
「なにかあったとしても、か」

 柊一郎が嘲るような顔つきになった。その表情を見て、華奈はしまった、と思った。

「なにかあったのは確かなんだな。俺と別れたばかりだってのに。それとも俺と付き合っているときからデキてたのか? だとしたらとんでもない屈辱だ。だが、これではっきりしたな」

 なにを言われるのか、と華奈は身構えた。
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