エリート上司の甘く危険な独占欲
 華奈は帰る間際に柊一郎に言われたことを、ぽつりぽつりと話した。話し終えたときにミモザがカウンターに置かれ、華奈は一口飲んだ。鮮やかな黄色のカクテルで、オレンジジュースの甘みにシャンパンのキリッとした味わいが爽やかだが、心は少しも軽くならなかった。

「あいつ、そんな思考回路でよく課長が務まるな」

 颯真がぼそっと言った。華奈はグラスを持ったまま颯真を見る。

「だいたいうちの会社が増やそうとしているのは、課長クラス以上の女性管理職なんだ。それだって、適切に評価する以外の選考方法は取っていない」

 きっぱり言われて、華奈は数回瞬きをした。

「それに……ここだけの話、貿易管理部の主任候補者の選定には俺も関わったけど、社内の評価基準に従って公平に、厳正に選ばれたのが華奈だった。個人的な思惑が反映されないよう、本社の各部署の部長クラス以上で決めた。選定にいっさい関わっていない、自分の能力を過信した男の話など、真に受けるな」

 颯真は華奈の右手をそっと左手で握った。

「いいね?」

 諭すように言われて、華奈は吹っ切れた気分でうなずいた。

「華奈は華奈だから選ばれた。俺が保証する」

 力強く、確信に裏打ちされた言葉。

 彼に聞いてもらい、彼に言葉をもらうだけで、心が温かくなることが不思議だった。今まで彼のことをよく知らないのに、彼がモテるというだけで苦手意識を持っていたのかもしれない。



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