エリート上司の甘く危険な独占欲
 もう一杯カクテルを飲んで、華奈は颯真とともにバーを出た。

 しっとりとした夜気に包まれ、ふと見上げた右側に、街灯に照らされた颯真の顔があった。淡いオレンジ色の明かりで、彼の彫りの深い顔がゾクッとするような陰影を帯びている。

 颯真がなに、というように小首を傾げた。華奈は無言で首を横に振って前を向く。大通りに向かって歩き始めたとき、颯真が口を開いた。

「今日このバーに来たのは……華奈のことを想いたかったからなんだ」
「私を……想う?」

 華奈は右側に視線を送った。目が合った彼が淡く微笑み、その眼差しが余りにセクシーで、華奈はわざとおどけるように言う。

「私にとったら、すごく恥ずかしい思い出しかないバーなんですけど!」
「俺にとったら、華奈の意外な一面を見たバーだった」
「えー……?」

 華奈は恥ずかしくて顔をしかめてみせた。男性に振られることが意外な一面だとでもいうんだろうか。

「さっき昇進候補の選定に関わったって話を少ししたよね?」
「はい」
「直属の上司ではないけど、総合販売部と貿易管理部は関わりが深いし、会社でのキミの仕事ぶりはよく見てきたつもりだ。キミは自分のことだけじゃなく、きちんと後輩のことを考えてやれる。それも甘やかすのではなく、ちゃんと育てようとする姿勢が見える。今回の相原さんの件でもそうだ。相原さんにあとで聞いたけど、課長に意見したそうだね」
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