エリート上司の甘く危険な独占欲
 麻衣はハッとしたように片手で口元を押さえた。そうしてすがるように言う。

「あの、華奈さん。みんなには内緒にしといてほしいんですけど、私と一之瀬部長は、その」

 麻衣が恥ずかしそうに頬を染めてうつむいた。その麻衣の仕草には見覚えがあった。昨日、淡いピンク色のシフォンブラウスを褒めたときのことだ。『彼氏と一緒に買い物に行ったときに』買ってもらった、と話していたときも、そんなふうに照れた仕草をしていた。

(なんてこと……)

 そのとき、エントランスの自動ドアが開き、中にいた梓が二人に気づいた。

「あ、おはようございまーす」

 華奈は麻衣の前でどうしても平静を装うことができず、梓に話しかける。

「おはよう、梓ちゃん。そういえば、来月の社内報ではカナダのメーカーを取り上げるんだよね?」
「あ、そうです」
「カナダに留学してたことがあるから、実はすごく楽しみにしてたんだ」
「そうなんですね。がんばって作ります!」

 梓の話を聞きながら、華奈はもうどうしていいのかわからない気持ちでいっぱいだった。かわいがっていた後輩の彼氏と、そうとは知らなかったとは言え、寝てしまった。しかも二度も。
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