エリート上司の甘く危険な独占欲
 華奈は小さく舌を出した。

「そう」

 健太は短く言って、前方の和風の店を示した。

「あの店?」
「うん」

 店の前に着くと、健太が横引きの扉を開けて、華奈に入るよう促した。

(へえ、健太もレディ・ファーストなんかするようになったんだ)

 少し驚いたが、彼も新しい恋を――もしかしたら何度も――しているのだろう。

「いらっしゃいませ。二名さまですか?」

 白いエプロンを着けた三十歳くらいの女性店員が二人に声をかけた。

「はい」
「こちらのお席にどうぞ」

 壁際の二人掛けの席に案内され、華奈は健太と向かい合って座った。

「この店、よく来るの?」
「そうでもないかな」
「ふぅん」

 さっきの店員がお茶を運んできた。

「ご注文をお伺いします」
「えっと……」

 華奈はカウンター席の上の壁に貼られたメニューを見た。ランチタイムのメニューは限られていて、今日は“たっぷりキャベツの生姜焼き定食”と“豆腐ハンバーグ定食”、“紅鮭の香草焼き定食”の三つだった。
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