エリート上司の甘く危険な独占欲
「私は豆腐ハンバーグ定食を」
「じゃあ、俺は……」

 健太は少し迷ってから、「生姜焼き定食」と言った。

「少々お待ちください」

 女性店員が席を離れ、華奈はお茶を一口飲んだ。健太が湯飲みを両手で持って、まっすぐに華奈を見た。

「相変わらずキレイだね」

 いきなりそんな褒め言葉を言われて、華奈は驚いてしまった。大学時代の彼は、褒め言葉を一つ言うのにも、小声でボソッと、それも激しく照れながら言うくらいの不器用な男性だった。

「そんなこと、言うようになったんだね」

 華奈は驚きをごまかすように微笑んだ。健太は目をそらして言う。

「あの頃も本当は言いたかったんだよ。もっと、たくさん」

 華奈はなんと答えていいかわからず、黙ったままお茶を飲んだ。

「だけど、華奈みたいな美人が俺みたいな冴えない男と本気で付き合ってくれるわけないって思い出したら……疑心暗鬼になって。華奈の言葉より牧野の言葉なんかを信じてしまった」
「うん……」
「悲しい思いをさせただろうな。本当にごめん」
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