エリート上司の甘く危険な独占欲
 健太が頭を下げた。

「や……そんな、今さらだよ」

 華奈は右手を軽く振った。

「そうかな? 華奈は途中でカナダに留学してしまって……謝ることもできなくて。四回生になったら、就職活動でほとんど大学で会わなくてさ。ずっと……気になってた」

 心が弱っているときにこんなことを言われたら、泣いてしまいそうだ。鼻の奥がつんとしてきて、華奈は大きく息を吸い込んだ。そうしてなんでもないふうに言葉を発する。

「そんなこと言わないでよ。私、カナダではいい経験ができたし、いろんな人種の人と一緒に勉強してたら、日本で気にしてたようなことなんて、なにも気にならなくなった。なによりあの留学があったから、今の会社に就職して今の仕事ができてるわけだし」

 健太は小さく笑った。

「今はどんな仕事をしてるの? 華奈ならモデルとか?」
「まさか! 普通の会社員だよ。インテリア雑貨の輸入販売会社で貿易事務を担当してるの。フィーカって会社だよ。四月に主任になったんだぁ~」

 場を和ませようと、華奈は明るい声で言った。

「へえ! そりゃすごいな」
「健太は今、何してるの?」
「コンサルティング会社に勤めてる」
「へぇー。どんな仕事をしてるの? って、あ、もしかして企業秘密?」
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