口づけは秘蜜の味
車に戻り先程と同じ後部座席に座ろうとしたら
長い指で助手席を指された

「タクシーではないから…前に来たらどうだ?」

「え…あ、でも…」

仕事では話すけれど

…二人きりになるなんてこれが初めてで緊張してしまう…

「いいから、後ろと前ではまともに話も出来ないだろう?」

そう言われたら従うしかないかなと
恐る恐る助手席に座った

「失礼します…」

「シートベルトはしたか?…出すぞ?」

「お願いします」

先程は後ろにいて気が付かなかったが…

すぐ横で……長い指がハンドルに添えられて
美しく動くその仕草にドキドキしてしまう

「サヤと彼女の旦那がお礼をと言っていました…本当に有難う御座いました」

「いや、大したことはしていない…ついでだし…ご結婚されているのか?彼女は」

「間もなくする予定で、もう一緒に住んでいるので…」

「そうか、ウチと同じようなものか…」

やはり……先ほどの彼女は婚約者なのか

帰ってきてくれないと嘆いていたし

がっかりしながら

(なんで勝手にがっかりしてるの?)

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