口づけは秘蜜の味
「可愛いな……」

「え…」

信じられない言葉が耳に降ってきたかと思っていると
…顎を持ち上げられて口付けられた

「?!」

一瞬、触れるだけ

けれど、しっかりとくわえるように…

薄い上唇が私の唇を掴んだ

「可愛いよ…舞花…」

バリトンの声が普段のクールな神上さんからは想像できない程に甘く響く

「な、……神上部長?」

「……名前で呼んではくれないか?」

長い指が私の唇の上をするすると誘うように動き
艷やかな目が顔のすぐ近くで煌めき
吐息が頬を掠める

緊張と恥ずかしさで…今にも心臓が飛び出しそうだったけれど……

その甘い雰囲気に流されるように

「ま、雅哉さん…」

小さく呟いて、触れた腕に手を添えると

「ん…舞花…」

今度はぐいっと立ち上がらされ
テーブル越しのキス

それは止まらなくて

何度も何度も角度を変えて降ってきた

そのうち…頭がぼぅっとしてきて身体の力が抜ける

自覚したくなかったけれど…

「行こう…舞花…」

この人に抱かれたいって思ってしまった

彼には婚約者だっているのに……

このまま流されてもいいだなんて

浅はかにも思ってしまった

好きに…なっていた

「は…い」

そのまま……抱きかかえられるように神上さんの家に連れて行かれ
縺れるように入った寝室で優しくベッドに降ろされた時

「二人の秘密……それでいいか?」

そう言って深く口付けられたのが始まりで

私はその問に答えられないまま

ただ、ひたすらに神上さんが私を『舞花』と呼んで

可愛い 可愛いと優しく撫でて愛してくれた

ふわふわした意識で…

正直、覚えていない




……そして早朝に起きたら昨夜の甘さはどこへやら

いつもどおりのクールな神上部長がそこに居た


< 13 / 49 >

この作品をシェア

pagetop