口づけは秘蜜の味
「話を戻しますけど、私なら好きな人となら…
一緒に美味しいものを食べたり
同じ場所で同じ事を経験したりモノを見て笑ったり
沢山話したり出来たら…たぶんそれで嬉しいです…」

男性は中々それだけで嬉しい人って人も居なくて
いつも無理ばかりしていた気もするけれど…

今、こうして神上さんの隣にいるだけで幸せです…

横顔に向かってこっそり伝える

「そうか……欲が少ないんだな…」

「いーんです!一緒に居られたらたぶん幸せなんですから…今は彼氏いないからその幸せ分かんないですけど !」

最後はもう神上さんへの本音が駄々漏れになるので
笑って濁してしまった

「はは、それもそうか…有り難う…参考にさせて貰うよ……最近上手くいかなくて………もう少し頑張るかな」

有り難うって言葉に素直に喜べないのは

神上さんの向ける意識が私のためじゃないからだな…

「いえ…頑張って…ください」

「ああ…そうだ…御礼にこれやる」

そう言って神上さんが差し出したのは
緑色のメモ帳で鈴蘭のイラストが描かれていた

白くて可憐な小さな鈴がたくさん付いたような花のイラストはとても素敵だ

「綺麗ですね」

「あぁ…うん…さっき片付けてたらデスクの奥から出てきたんだ……企業に貰ったやつだったか……何となく女性向けっぽいし、オレより舞花に合うんじゃないか?仕事にでも使えよ……」

「有り難うございますって、お礼だなんて!私がいただいたこのランチボックスの方が高いですよ!」

「そこは気にするな…」

先に戻ると言って神上さんが居なくなった後
メモ帳を暫し見つめる

綺麗な顔ってだけでも隣でドキドキするのに

意外と分かりやすいし、冷たいような口調でも優しくて仕事もできて部下思いで…

(どんどん好きになる材料しかみつからないのに)

諦めなくちゃね

あんなにも婚約者の事を考えてるのだから…

部下に徹しよう…
そう決意しながらメモ帳を鞄にしっかり仕舞った
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