口づけは秘蜜の味
「すまない…」

そう呟いた神上さんが私の身体を離した時

…少しだけ顔が赤かったような気がしたのは
バツが悪かったからかもしれない

どうしていいか分からずに私はおどけて見せる

「気にしないでください……近くにあった木の幹に抱きついただけですから!」

「は?木の幹…?」

「はい…太すぎますけど…」

何を言っているのか自分でも分からない

「木なんか出来ないなぁ………しかし情けない所をまた見せてしまったな…」

「あーいえ…忘れました」

私が掌を見たのを感じたのか困ったように少しだけ眉を下げた神上さんが額に指をおいた

「鍵を…受け取らないんだよ…困ったなぁ…」

(一緒に住んでるのに家出中なのかな…上手くいかないって言ってたもんね)

「当たった所冷やしますか?…あそこに水道あるから…痛そうですよ?」

「舞、は優しいな…」

「いえ…誰でもそうするかと…っ!私、帰ります」

熱っぽいような視線で私を見ている神上さんに耐えきれずに目を反らしたけれど

それは手首を引き寄せられあっさりとまたしっかりと同じ高さで合わされた

「帰るな……」

そして次の瞬間には唇に柔らかい感触…

(キ、キ、キス!!)

触れるだけで離れたけれど

じんわりと温もりが唇にしっかり残っている

呆然と立ち尽くすと神上さんが端を三日月のように持ち上げた唇で告げた

「まだ居ろよ…傷心のオレの手当てしてくれよ」

(??)

いつもと口調が違うような……

「それとも急用で帰らなくちゃ駄目なのか?」

綺麗な黒い目が潤んで私を誘う
やっぱり口調が違う!!

「い、いいえ…用事はありませんけど…」

(家に帰るだけで暇なだけですけれど)

「…ま、いいやじゃあ行こうぜ」

自然に握られた手に違和感なく掴まれてしまう心

(本当にいいんですか?)

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