口づけは秘蜜の味
あの時は本当に必死にやっただけで
特別なことをしたわけではなかったけれど

結果……

「アレでお前の採用が決まったようなものだ……
大学生バイトにしては機転が利いたし、態度も良かった」

と、言われた

「ただ……あまりにもニコニコして仕事をしていたから、つい苛めたくなったのも事実だな、あの時は」

などと抜き打ちテストなのか
単なる意地悪だったのか分からない発言をされた……

採用試験の面接の時に
初めてあの時の綺麗な男性が会社の人だと知り
神上さんは神上さんで、すぐに私が分かったらしい

採用の判を捺したのはオレだと未だにたまに言う……

「いじめ甲斐……いや、鍛え甲斐がありそうだと思ったからな」

冷ややかな目許で神上そんは私に言う

神上さんは殆ど表情を動かさずに仕事をする

能面…などとも揶揄されるが、クレームの対応でも部下を叱る時でも…

本当に顔色一つ変えないのだ




気がつくと出社した神上さんがすぐ横に立っていて

昨日纏めた会議資料に赤ペンを入れて返して寄越した

「坂下、この部分の数字の根拠が弱い…出し直せ」

「畏まりました」

返された資料をペラリと捲ると赤いペンで幾つか丸がされていた

(ん?)

不思議に思い神上さんを見ると
もうすでに電話をしながら何やら打ち込んでいた

下線が引かれた訂正箇所とともに…
丸が付いていたのは…幾つかのアルファベットと『?』

j x o o v   j b 『?』

抜き出して読んだが意味が分からない…

何か意味があるんだろうか?

……後から聞いてみようと手帳に書き取って自分の鞄に入れた
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