永遠の恋を君に
それから1週間後。

病院の完璧なセキュリティを抜けて、不審者が侵入した。彼女を誘拐して逃げたが、犯人はすぐに捕まり、彼女にも大きな傷は残らず、あまり大きな事件としては扱われなかった。

それはもちろん俺にとってもだった。だけど、彼女の無事を確認したくて病院へ行こうとすると、父さんに止められた。
あんな危険な病院へ行くんじゃない。と。

次に彼女にあったのは、ちょうど6歳の誕生日だった。
初等部へ入学した彼女のお祝いに、たくさんの薔薇を持って屋敷を訪れた。
彼女の父親もみんな笑顔で出迎えてくれて、俺は会うのが楽しみになった。

「沙夜香、直樹くんが来てくれたよ。」

2年ぶりに会う彼女は、随分大きくなって、落ち着いた雰囲気になっていた。まだまだベッドでの自宅治療をしているらしく、出迎えもベッドだった。

「久しぶり、さやちゃん。」

俺がそう言うと、彼女は不思議そうな顔をしていた。

「さやちゃん…?」

俺が呼びかけると、彼女は首を傾げたまま答えた。

「誰?」

俺はその場で固まった。彼女の父親も沙夜香の肩を揺すって慌てていた。

「沙夜香!直樹くんじゃないか!結婚するって約束してた!」

「…誰?分からない。」

俺は気づいたら屋敷を飛び出していた。

彼女のための花束もボロボロにして。

あの時。病院に行って無事を確認しておけばよかった。そうすれば忘れらなかったんだ。

「直樹くん!」

遠くから彼女の父親の声がして振り返った。

「すまない。誘拐される時に使われた睡眠薬が記憶障害を起こす原因になるらしくて…
何も忘れていなかったから、後遺症は残っていないと思っていた。まさか。まさか君の事を忘れていたなんて…」

そう。彼女が出会ってきた人の中で俺1人だけ、彼女の記憶から消されてた。

「仕方ないです。僕が、あの時お見舞いに行かなかったからなんです。」

後悔してもしきれない過ちを、俺は悔やんだ。

「時枝さん。」

俺はあることを思いついた。

「いつか彼女が専属執事を雇うことになった時は、僕を専属候補にしてください。」

彼女の父親は驚いていた。

「それは駄目だ。だって君は…」

「久我家の跡取りだから…ですか?」

「あぁ、そうだ。」

そう。僕は、時枝家程ではないけれど、そこそこ名家だった久我家の長男だったのだ。

俺は悔しかった。久我家の跡取りだから、危険な病院へ行ってはいけない。久我家の跡取りだから、執事の職に就いてはいけない。

どうして、彼女を守る仕事が出来ない?
俺だって、普通の男なのに…

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