あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

***

人気の減った午後十一時。

荷物を片付け、外へ向かう。

「あ、翔琉!」

そこにいるのは、毎日必ず残ってくれる塾長の水田先生だった。

「私、明後日、親戚の法事やから、明日九時半までしか開けられへんねん。ごめんやけど、家でしっかり勉強してな!」

「はい、わかりました」

「しかしまぁ、よく毎日十一時まで残れるなぁ。初めて残った日は地獄のような顔してたのに。なんか夢でも見つけたんか?」

夢か。塾長だから、このくらい聞くのは当然だろう。

「まぁ、ちょっと見えてきたかなって感じです」

ぼんやりと、でも確かに、この前の俺よりは見えてきた気がする。

「そっか!じゃあ頑張れ!大学進学やろ?高校受験の時みたいに、ちゃんと合格させたるからな!」

「そうですけど…。あれはスパルタやったんで、やめてください…」

ハハハッと大きく笑って、背中の鞄を思いっきり叩かれた。

「じゃあ、さようなら」

「おう!また明日ね!」

先生にぺこりと頭を下げ、俺は光希歩の待つマンションへと急いだ。
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