あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

桜がほぼ満開に近づいていた。
度々風にのって舞い上がる花吹雪は、あまりにも幻想的で美しかった。

ロータリーを約半周し、見上げたと同時に光希歩の顔が出てきた。

声をかけようとすると、先に光希歩が声を出した。

「ごめん、翔琉。このごろおばあちゃんの調子がよくなくて。だから今日は話せない」

そうハッキリと言ってくれたことで、逆に安心した。隠されていると、余計に不安になる。

「わかった。おばあちゃん、お大事にな!」

うん、と言った光希歩は、早々と中へ消えていった。

俺は短くため息をつく。

まあ、光希歩にとって、大切な大切な、家族だもんな。あれだけ深い傷を負えば、どんなに小さな風邪でも心配になるだろう。今は季節の変わり目で、風邪を引く人が多いからな。無事に治ってくれればいいんだけど。

そう思って自転車のペダルを踏む。
電車が一本通過した。
風が舞起こり、俺の目の前を、花びらが一枚飛んでいった。
空高く舞って。
届かないほどに見えなくなった。
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