あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
揺れは、ほんの十秒程度で終わりを迎えた。
まだ小さく左右に揺らされる中、流しっぱなしの水や床に散乱する食器などお構い無しに、私は電話台へ飛びついた。

目の前のコルクボードに貼られてある電話番号を読み、震える手で必死にボタンを押した。
心臓がどくどくと激しく脈を打つ。
そのせいか息が荒くなり、過呼吸になるのではないかと思うほどだ。

呼出音がいやに長く続く。
まさか、何かあったのではないだろうか。

よりによって遠足の日に。
よりによって潮干狩りだなんて。

………嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ!!海光!!
もう二度と、カクのように手を離しはしないって心に誓っていたのに!!
嫌だ!!やめて!!
もう私の家族を連れ去らないで!
血が繋がっていなくとも……海光は、私の…最後の…たった一人の…家族なのよ…!!

長い長い呼出音の末、やっと聞こえた誰かの声。
相手の《もしもし》という声を遮って、私は叫んだ。
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