あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
***

外に出ると、暗い闇の中に電灯がぽつぽつと辺りを照らしている。

風が少し肌寒く感じた。

後ろで広音が体を小さくしながら自転車に鍵をさしている。

そんな姿を見ながら、俺はずっと思っていたことを聞いた。

「広音、お前最近一緒に残ってるけどさ、なんで残ってんの?」

顔を上げた広音が一瞬間を置いて話し出す。

「え…まあ、その、なんだ。…夢があんだよ」

意外な言葉が返ってきた。

だって、いつも軽く笑って、なんでもあしらっている広音が「夢がある」だなんて。


「俺、宇宙飛行士になりたいねん」


その視線は真っ直ぐで、俺を見ているのにどこか別のところを見ているように思えた。


「だからさ、最近翔琉が残ってんのは将来とか大学のためかなーって思ったら、俺も負けてられへんなーって思って」


将来?

夢?

俺にそんなものはまだ無い。

当たり前のように名門校に入学出来たのはいいが、俺には夢がない。

ただ、どこか良い大学にでも行って就職して、なんとなくで生きていくつもりだった。

みんなそうだと思っていた。
でも、現に広音は自分の夢をもっている。
しっかりとした将来が見えている。
たとえそれが叶わなかったとしても。

俺が夜遅くまで残る理由なんて、ただあの子に会うための時間つぶしだってのに、広音はちゃんと目標を持って生きているんだ。

いつか自分にもやりたいことが見つかると思っていた。いや、実際いまもそう思っている。だけど、その〝いつか〟は本当に訪れるのだろうか。俺が大人になるまでに見つかるのだろうか。


「…夢があっていいな」

そう言うことしかできなかった。

広音は敢えて俺に何も問わない。
「いつかお前にも見つかるって」とか「まだ夢がなくても大丈夫や」とかいう言葉もなかった。

分かってくれているから。

俺が夢について少し不安に思っていること。

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