あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
これから何を言うか。
そんなの決まっている。

「あのさ…」

「なに?どうしたの?」

三十度ほど見下げたところに、身長の問題で上目遣いになっている光希歩がいた。
もし昨日、海光ちゃんがいなくなってしまったら、今頃きっとこんな状態ではないだろう。
彼女は、今までたくさんのものを失いすぎたんだ。
だから今も尚、心はあの日から動いていない。
ずっと後ろを向いたままで、過去に囚われ続けている。

「…光希歩、歌手目指したら?」

光希歩が前を向けないのなら、俺が手助けをすればいい。

光希歩は少し眉間にしわを寄せたあと、口を開いた。

「昨日、海光にも言われた。でも、そんなの絶対無理だよ」
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