あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
言葉には必ず足りていない裏の部分がある。
『辛い思いをするだけ』それは、もう辛い思いをしたくない、辛い思いをするのが怖い、という表れなんだ。
でも光希歩、忘れてるんじゃないか?
本当に、見下されてばかりだったか?
「じゃあ俺は?母さんは?光希歩はほんまに、この世の全員から見下されたん?」
彼女は一瞬言葉に詰まって「それは…」と視線を泳がせた。
「俺は、なんも特別じゃない。この世に生きる人々の中の一人や。たとえ光希歩を見下す人がおったとしても、それを庇ってくれる人も沢山おるんやで?」
俯き、左に流れた前髪によって顔が見えない。
今、光希歩が何を思っていて、俺がそれをわかろうと努力しても、完全に理解することなんてできない。
だから、俺は『光希歩の気持ち、わかるよ』なんて言えないんだ。
その人になってもないのに、わかるわけがないのだから。
人はそれぞれ違う思考をもっているのだから。
「歌は、嫌いじゃないよ。でも…」