あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
「岸元さんの長所と短所を教えてください」

「長所は……わかりません」

「短所は?」

「短所は……ネガティブ…かもしれません」

「…では尊敬している人は?」

「え…」

「今現在努力していることは?」

「ええ…」

「目指したいジャンルは?」

「えええっ」

ついに私の中の語彙がなくなると、翔琉は笑いだした。
面接とは、こんなに厳しいものなのかと初めて知った。

「主にこんな感じで聞かれるみたいやから、スラスラ答えられなあかんねんて。あと、光希歩、正直に答えんのはええねんけど、正直すぎんのはちょっとなぁ」

翔琉は微妙な笑みを浮かべた。
私もつられるように片側の口角を少々上げる。

「面接までに、ちょっとは言葉を考えといた方がええと思うで」

うん、と言うと翔琉は自分の部屋に戻っていった。
高校三年生となった翔琉は、受験勉強で忙しいにも関わらず、私の面倒を見てくれている。

それほどまで私に歌手を勧めて、翔琉に何の得があるのだろう。
私は未だ、不思議でならならなかった。
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