あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
五分もたたないうちに呼ばれ、私はおじさん三人が座っている一次審査の部屋で、練習した歌を歌ってみせた。
緊張はした。
最初の声も出ないかと思った。
でも、歌う時は多少目を閉じてもいいと思う、と翔琉に言われたため、今回もそれを実行した。
視界になにも映らないのは、すごく楽だ。
私の閉じこもっていた、安心する空間と同じ。
自分だけのその世界では、容易に自身をさらけ出すことができた。
「…はい!じゃあ控え室で待っててくれるかな。後で結果、知らせに行くね」
当日中に、目の前で結果を知らされるこの事務所は、緊張させる暇もないのかもしれない。
ありがとうございました、と目を合わせることなく挨拶をして部屋を出た。