あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

「…光希歩」

扉の外から翔琉が私を呼んだ。
私は扉に背を向けて、無視をした。

「光希歩…ごめん。俺のせいや」

…どうして翔琉が謝るのか、私には理解できなかった。
面接に落ちたのは私が不手際だっただけなのに。

「俺が無理やりオーディションに受けさせたから…。ほんまごめん。辛かったよな」

無理やり?無理やりではないよ。
それに…。

「辛くなかった…」

「え?」

私の小さな涙声が廊下まで聞こえているかわからない。
でも、ハッキリとわかったんだ。

「歌を歌うのは…楽しかったんだ」

一次審査通過と言われた時、嬉しかった。
こんな感情、いつぶりだろうかと。

「でも…でも……」

言葉にならない。この思い。
何これ。痛くも嬉しくもないこの涙は…。

すると後ろでバンッという音がした。
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