あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
反動でビクッと揺れる体を、背後から何か暖かいもので優しく包まれる。
でもそれは、少し硬く骨張った翔琉だった。
いきなりの出来事に思考が停止するも、すぐにさっきのモヤモヤは戻ってきた。
涙が頬を伝って、翔琉の腕に落ちる。

「……悔しかったよな」

…悔しい?
くやしい…。
そうか…私、悔しかったんだ。

耳元で聞こえた優しい声に、私のこの気持ちはピッタリと当てはまり、溢れる涙と共に溶け落ちていくのがわかった。

「悔しい…悔しかったよぉ…」

翔琉はうんうんと頷く。

「一次審査、通過って言われた時っ…すごく…すごく嬉しかった…。なのに…他人の目を見て話すことが、できなかった」

翔琉の優しい腕を、ギュッと握りしめた。

「悔しい…。人とまともに話すことすらできない自分が悔しいっ…。
忘れたいのに、忘れられない…。思い出したくもないのに、思い出してしまう…!!
あんな記憶、全部消し去ってしまいたい。なのに…。なのに、どうしても消えてくれない…!」

溢れる感情と一緒に、どんどん表に出てくる心の雨。
翔琉の前で、一体何度泣いたことだろう。
息の仕方がおかしくなって、細かく小さくしか吸えなくなった時、翔琉が呟いた。

「……光希歩。きっと忘れへん方がいいんや」
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