あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

下り慣れた、この結構な急坂。

こちらも同様、それほど人通りが多くはないので俺はあまりブレーキを引かず、自転車に身を任せて走っていた。


古びた病院。
小さなコンビニ。
塗り替え中の家。
看板が大きく前に出ている塾。
ATMが狭い空間にぽつんと立っているだけの銀行。

繰り返し見える世界。

別につまらなくはない。

毎日空に浮かぶ雲だって、全部が全部同じ形じゃない。

路地の向こうから聞こえてくる、小さな女の子の声だって、今日はいつもに増して耳が痛くなるほどの高い叫び声をあげている。

ほら、今度は目の前に何かよく分からない赤いボールのようなものが飛び出して来て…。

───ガッシャーン!

俺はそのままボールに乗り上げ、勢いよく転び、腕や膝やらを擦りむいた。

そりゃあ、いつもに増した叫び声が聞こえたわけだ。

そんなことを考えていると、小学校低学年くらいの女の子たちが路地の先から出てきた。

そして、申し訳なさそうな目でこちらを見て謝るもんだから、苦笑いで返し、痛みに耐えながら自転車にまたがって、逃げるように漕ぎ出した。

漕ぎ出したのはいい。
傷口がヒリヒリと痛むのも、俺が不注意だったから仕方がない。
けれど…どうしてこんなにも世界がガタガタに揺れているのかな?

まあ降りて見なくてもわかる。

パンクした。

そそくさと降り、重い荷物が乗った自転車を引いて、すぐそばの自転車屋へと向かった。

その自転車屋は綺麗な三角柱の建物。
要は狭いということだ。
中はバイクや自転車だらけで、人ひとり通るのが限界と思われるほどの細い通路。
俺は表から中にいる知り合いのおっちゃんに向かって叫んだ。

「おっちゃーん!パンクしたんやけどー」

すると、中から肩にタオルをかけ、少々汚れた服を着たおっちゃんが出てきた。

「んんー?あー翔琉かあ。なんかズタボロじゃねーかあ?」

「…ちょっと色々あってん」

はあ。最悪だ。
ズタボロとか言われたし。

おっちゃんがタイヤを持ち上げる様子を見ながら少し肩を落とす。

すると、どこからか優しい音が耳に入ってきた。
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