あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
意外な言葉に驚いた。
忘れられないあの日のせいで、私は八年たった今もなお苦しんでいるのに。
「どうして…?どうしてそんなこと言うの!?翔琉は私に…ずっと苦しめっていうの!?」
こんなこと言いたいわけじゃない。
こんなことしたいわけじゃない。
でもそれを、今の私は上手く言葉にできないんだ。
「…違う」
そう言うと翔琉は私を包む腕を離し、体を百八十度回転させられ、汚い顔のまま正面に向かされた。
「忘れんほうがええねん。楽しい思い出も、辛い記憶も。光希歩のその思いを、次の世代に伝えるために。いま光希歩と同じ思いをしている人達を、救うために。それはどんなやり方でもいい。歌が好きなら歌で伝えればいい。これは…光希歩にしかできひんことやねんで」
忘れたい記憶でも、次に繋がる力となる。
翔琉の言葉は、私が今まで閉じこもっていた硬い殻を砕いた。
たくさんの割れ目から、無数の光が射し込んできた。
あなたはあなたでいいんだよ。
それでいいんだよ。
私の心に、私の声が聞こえてきた。
そうだ。
みんなと同じように、苦しいことなどないかのように無理に明るく振る舞わなくたっていいんだ。
みんなと違う、辛い記憶を持っていても、それがずっと忘れられなくても、それは悪いことじゃないんだ。
自分らしく、回り道をして、ゆっくりと進んでいけばいいんだ。
そうして前に進み出せた人が、次に今までの私のような人々を救っていけばいいんだ。