あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
この曲は、家では歌わないようにした。
もし、次のオーディションに合格したら、その時に発表しようと思ったから。

私はもう、落ちることに恐れはほとんどなかった。
だってこれから先、何十年と続いていく人生。何度だって受けることができる。
そりゃあ、落ち続けるのは精神的に参ってしまうかもしれないけれど、家族を失うことと比べたら、こんなの比ではない。

翔琉が以前、こんなことを言ってきた。

『光希歩は、今までずっと辛い思いをしてきたから、もうあとは幸せばっかやな!』

残りの人生が幸せのみなんて、絶対にありえないと思ったけれど、それを信じてみることも大切なんだと思った。

ずっと信用できなかった他人を少し信じてみるだけで、私の中で楽しいことが一気に増えた。

裏切られた時は辛い。でも、裏切られるばかりではない。

私は今まで、裏切られた時のことばかり考え、恐れていた。
反対の場合を思い浮かべようともしなかった。

多様な面から見てみることの大切さに改めて気付かされたんだ。
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