あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

流れる景色に魅了されながら、約一時間ほどかけて会場に到着した。

受付のお姉さんに向かって、勇気をだして、挨拶をする。

「…お、オーディションに応募していました、岸元光希歩です。よろしくお願いします」

少し緊張したが、最近の努力のおかげでハッキリと目を合わせてそう言えた。

「オーディションですね、ここに名前を書いて、あちらの長椅子に座ってお待ちください」

指示されたところには、既に数人の男女が腰を下ろしていた。

緊張した様子で深呼吸をする人や、ずっと胸の前で手を合わせている人など、様々な人がいる。
チラリと私の脚に視線がくるのを感じたが、堂々と席に着いた。
別に、何かを言われることもない。
今は自分のことで手一杯というのもあるだろう。

しばらくすると、審査員の人が来て簡単な説明を行った。
しっかりしたところだなぁと思いつつ、一人ずつ呼ばれ一次審査と書かれた部屋に入っていくのを見る。
私はただ目を瞑り、自作の歌を頭の中に流していた。
< 213 / 240 >

この作品をシェア

pagetop