あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

人気の少ない駅で下車した。
光希歩は昨日までの疲れが溜まっていたようで、電車に揺られながら途中で眠ってしまったのだ。
眠い目を擦りながら、少し歩いたところで血相を変える。

「………もしかして…」


だんだんとよく聞こえてくる涼し気な音。
より一層冷たくなった三月の風。

「ごめん。ずっと、光希歩と一緒に来たかってん…」

目一杯、視界に映り込むのは、青い空と、波頭が美しく輝く海だった。

潮風が冷たく、波の音が心地良い。
そう思うのは俺だけかもしれないけれど。

光希歩は呆然とその海を見つめた。
そうして、崩れるように砂浜に膝をつく。

「光希歩!?」

「…大丈夫。大丈夫だよ」

ただ波を見つめる光希歩に、連れてきたことを少し後悔した。

光希歩は俯き、白くサラサラとした砂を手に取ってみる。

「……懐かしい…懐かしいなぁ」

ひとつの雫が頬を滑り落ちた。

「久しぶりだね…。穏やかだね…。天使の姿をしてるね…」

その表情は、辛そうで、でも嬉しそうだ。
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