あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
「私…やっぱり海を嫌いになんてなれないよ…。大好きだったから」
家族を奪われた、目の前の自然を相手に、そんなことを言える光希歩は、きっと本当に海が大好きだったのだろう。
愛しいこの人を、ずっと守りたい。
これから、何があろうとも。
「…光希歩」
「なに…?」
「あの日の帰り道のこと、覚えてる?」
その言葉に、黙って頷く光希歩。
「忘れるわけない…。忘れられるわけないよ…」
前を向けた今も、なくなることのない傷は、どこまでも深いもの。
「俺も…あの日の帰り道のこと、よく覚えてる」
そう言うと、光希歩は首を傾げた。
「なんで?翔琉はあの日、なんともなかったじゃない」
そうだよ。
光希歩にとってのあの日のこと、俺はほとんど覚えていないようなもの。
過ぎていく毎日を、当たり前のように呑気に楽しく過ごしていた。
でも、あの日、そんな俺を変えてくれたこと、よくよく覚えてる。
「あの日の帰り道、光希歩に出会ったこと。あの日の帰り道、光希歩に過去を…光希歩にとってのあの日の出来事を教えてもらったこと。忘れられへん。ちゃんと覚えてる」
そこでハッと気づくように潤った瞳と目が合った。
「光希歩にとってのあの日も、俺にとってのあの日も、きっと、ずっと、永遠に…覚えてるからな」