あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
ゴソゴソとビニール袋をいじる音が終わると、パタパタと音を立て、光希歩の顔が現れる。
「…あ」
来てたんだ。と言わんばかりに声を漏らす光希歩。
「よ、よう。…今日も塾残ってたらこんな時間なったわ」
「…塾行ってるの?」
「あ、うん。まあな」
「へえ…」
会話が途絶える。
俺は事前に考えてきたことを話した。
「毎日家の手伝いとか偉いな」
すると光希歩は少し考えた様子で答えてきた。
「…違う。偉くなんかない。こんなことしか出来ないから…」
言っている意味がよく分からなかった。
勉強が苦手だから、家事しかできない。ということだろうか。
「まあ、人には向き不向きがあるしな!俺、基本家事やらへんし、できひんし。俺は光希歩のこと、偉いと思うで」
「……翔琉、家事しないの?」
名前を呼んでくれたことに少し興奮しながら、彼女の問いに答える。
「うん。まあ、うちの家、母親が専業主婦やし」
「ダメだよ、手伝わなきゃ。専業主婦でも結構家事って大変なんだからね。家事に休みはないんだから」
突然、口数が少なかった光希歩がはっきりと言ってくれたことに、なんだか俺は嬉しくなった。
「そ、そやな!ごめん!これからは手伝うわ!」
光希歩は深く頷き、俺は家事を手伝うために帰ると言った。
時間もそろそろ限界だったという理由もある。
長く真っ直ぐな道をただただ走り、家に着くと、まだ母に角は生えていなかった。
そして、きちんと手伝った。
自分の弁当箱を洗って。
不思議そうな顔をする母に家事のことを色々聞いて。
短い時間だったが、俺は光希歩に言われた通り、なれない家事を手伝い続けた。
明日、光希歩に話せるように。
明後日、光希歩に笑ってもらえるように。
これから毎日、光希歩に会えるように。