あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
光希歩side.
最近、毎日うちのマンションの下に来る人がいる。
私がわざわざゴミ捨ての時間を少しずらしても、その人は毎日来ていたみたいだ。
どうしてここに来るの?
私は来ないでって言ったつもりだったのに。
来ないでほしいのに。
他人と関わるなんて、私は二度とごめんだから。
過去と同じ過ちを繰り返したくないから。
だから私は彼に聞いた。
「どうして来るの?」
すると 歌を聞きたいから と彼は言う。
歌か。
私のお母さんが作った歌。
だけど実際、翔琉と名乗る彼の前で歌ったのは、あの日を最後に一度もない。
毎日、お互いのくだらない話をするだけ。
その度に、翔琉は嬉しそうな顔をする。
思えば、毎日話に来ていいかと尋ねられ、「偶然会うことが出来たなら…」と返した時も、彼の周りだけ、太陽が昇ってきたかのように明るくなって見えた。
約束をしたわけではないのに。
どうしてそんなに幸せそうなのだろう。
お母さんの家事をちゃんと手伝えって言った次の日も、嬉しそうに「手伝ったで!」と言ってきた。
ただの報告なのに、どうして?
どうして、どうでもいいことまで笑顔で言えるの?
ああ。そうか。
きっと、下から見上げるその人は私の本当の姿を知らないから。だから毎日あんなに笑顔で話すことができるのね。
だったら、本当の姿を知らないこの人と、過去の人たちがどれほど違うのか。この目で確かめてやろう。
そう思ったから、私は翔琉に名前を教えたんだ。