あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
今日もいつもの時間になった。
小学校三年生の妹に渡されたゴミ袋を手に、私はベランダへと向かう。
ベランダへ出ると、冷たい風が私を包み込んだ。
フッと息を漏らす度、目の前に白い煙が立ち、風に流され消えていく。
臭いのきつい大きなゴミ箱に、ゴミ袋を詰め込み、蓋をした。
そうして、いつものようにベランダの縁から下をのぞき込む。
するとまた同じ、ニコニコとした表情で私に手を振る人がいた。
「よう光希歩!今日は一段と寒いなあ〜」
そう言う翔琉の目の前にも白い煙が立ち上る。
それは私のいるところまで届きそうで、でも届かなくて。
翔琉と私の距離と同じ。
翔琉は私を信用しているだろう。
けれど、私はそうじゃない。
「そうかな?私はいつもと変わらないと思うけど…」
「そうか〜?」
だって真冬の夜なんて、いつだって寒いじゃない。
どうしたら、ほんの少しの違いに気付けるのだろう。
「そういやさ、光希歩って誕生日いつなん?俺二〇〇一年の七月七日。七夕生まれやねん!」
聞いてもないのに自分のことを話す。
これは礼儀のつもりなのだろうか。
それとも、教えるかわりに教えろということだろうか。
「…二〇〇二年の三月十一日だよ」
結局私は答えてしまうんだ。
「三月十一日?」
誕生日なんて嫌い。
三月十一日。
東日本大震災と名付けられた事故が起こった日。
私はあの日以来、誕生日を喜べたことはない。
「そっか…。あ、てことはもうすぐやん!」
「…そうだね」
それだけ言うと、翔琉は何か考えた様子で下を向き、また私を見上げてきた。