あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。


音のする方を見ると、すぐ隣のマンションの二階のベランダで、美しい少女が歌って……。


………んな、ドラマチックなことあるわけないか…。

前髪は左側に流され、後ろ髪を軽く縛っている高校生くらいの女が植木にホースで水をやっていた。

「おばあちゃん!ミニトマトも、もう一回水やりしておいた方がいい〜?」

そのスっとした声になんだか俺は引き寄せられたような気がした。


「あ、はーい!分かった〜!」

美しい艶のかかった髪の毛が、ふわりと浮かび、振り向いた少女と目が合う。


その瞳は大きく、西日に照らされ、テレビに出ていてもおかしくないと思えるほどの美しい容姿だ。


もう少し見ていたいと思ったが、彼女はすぐに横を向き、水道の蛇口を閉めるようにして中に消えていった。



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