あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
光希歩と同じで、今日が誕生日の人は毎年思いだせるのかもしれない。
でも、みんながこの日に生まれたわけじゃないから。思い出せない人も。小さい子であれば、知らない人も。いるかもしれない。
だって、変わらぬ日々のうちの一日でしかないのだから。
俺みたいに、平凡な暮らしをおくっている人には、繰り返す毎日の、ほんの一瞬の出来事にすぎない。
人は忘れてしまう生き物だ。
何もかも覚えていられる人なんていない。
だけど、俺はもう忘れない。
今日は光希歩の生まれた日であること。
それが今日、三月十一日であること。
その三月十一日は、あの辛く悲しい出来事が起こった日だと。
必ず思い出す。
今日は、光希歩と俺が出会って初めての誕生日となる。
そんな日が。今日が。
光希歩の辛い顔を見る最後の日となりますように。
俺は、窓の外の真っ青な空にぽっかりと浮かぶ、ひとつの大きな白い雲に向かって願った。