あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
まだ冷たい風が頬をかすり、駐輪場を飛び出した際にずり落ちた鞄の肩紐を片手で元に戻す。
そうしている間も、足を止めることはしなくて。早く君に会いたくて。
やがて、町を明るく照らすロータリーの電灯が姿を現した。
レンガ模様の建物のすぐそば。
自転車から降り、誰も居ないベランダに目をやった。
今日。
光希歩は、本当に望むものをくれたなら、過去を教えると言った。
俺は別に、過去が知りたいわけじゃない。
ただ君が本当の笑顔を見せないわけが。その理由が過去にあるのだとしたら。それを知り、改善策を考え、光希歩に心から笑ってほしいんだ。
そのために。過去を知る必要がある。
そのために。光希歩が望むものを渡す必要がある。
どうか。
今日から、光希歩が心から笑ってくれますように。