あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
十五分ほど待った。
時間は約束していない。
それでも。彼女は必ず出てくる。
信じている。
だから俺は、いつまでも待てるんだ。
そう、空を見上げながら俺は思った。
昼間は青く澄みきって心地の良かった青空も、今はどんよりとした重たい雲の層で覆われていた。
空くらい、今日、光希歩を祝ってやることはできないのか。
人間の力ではどうにもならない自然現象に向かって思う。
すると、俺を見つめるひとつの視線と目が合った。
「光希歩!」
「…今日、早いね」
戸を開ける音も、ゴミを捨てる音も立てず、ひっそりと顔を出してきた彼女は、いつもに増して寂しそうな笑みを浮かべていた。
そんな顔するなよ。
どうしたら、君は笑うんだ。
どうして君が生まれた今日この日は、彼女を祝福してくれない。
「…光希歩」
だから。
「うん?」
せめて俺が。
「誕生日。おめでとう」
君が誕生した日を喜んであげなければならないんだ。
「…ありがとう」
それでも、彼女の顔色は変わらない。
それどころか、彼女は唇を噛み締めたように苦しそうな表情になる。
「下りる…ね」
「…おう」
そう言って彼女は消えていった。
プレゼント。
君は喜んでくれるだろうか。
笑ってくれるだろうか。
あんなに苦しそうな顔をして。
いや違う。
させてみせるんだ。
俺が。
そうして、ゆっくりと自転車を押し、入口の手前に止めた。