あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。


目の前に佇む綺麗な少女。

それと同様、光に反射され、俺の目に届く銀色の右脚。

その顔はいたたまれないほど苦しそうな色を作り出していた。


違う。
そんな苦しそうな顔をして欲しいんじゃない。
今日は。
光希歩にとって。
最高の日にしたかったのに。


「…ほら。だから下りたくなかったのよ…」

苦しそうにその言葉を吐き捨てた彼女は、くるりと背を向けて去って行く。


かける言葉は見つからなかった。
それでも、俺は無意識に走り出していて。
彼女の細い腕を掴んだ。

届かなかった手が。届いた。

「…ま、待って…。まだ。渡してへん…」

すると弱々しかった彼女の腕に、強く力がこもり、俺の手を振り払おうとした。

当然、彼女の力ない腕では振りほどくことはできない。
半身になって、俯いたまま、何度も何度も激しく腕を上下する。

「ちょ…光希歩…」

「…いらない。物なんて欲しくない」

そう言って俺を睨む、彼女の髪の隙間からは、今にも溢れ出しそうな、潤いに満ちた瞳が姿を現していた。


君の涙は、耐えられないほど俺の心を締め付ける。
本当に苦しいのは、光希歩だと。わかっているのに。

俺は何も言えず、ただ力強く、彼女の目の前に紙袋を差し出した。

< 41 / 240 >

この作品をシェア

pagetop