あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
***
「はぁ………やっと終わったぁ…」
十一時の鐘がなり、俺は肩を回しながら片付けを始めた。
地獄だ。
授業を二分遅刻しただけでプラス一時間半だなんて。
俺はまだ高二だぞ。
受験生じゃないんだから、勘弁してくれよ。
明らかにだるそうな顔をして「お疲れ!」と笑顔で言う水田の横を通り過ぎる。
階段を下り、直してもらったばかりの自転車に跨ってまたあのロータリーへと向かった。
もう十一時というだけあって、人っ子一人いない。
時折やってくる電車から降りてきた会社員のおじさんたちが、一人二人通るくらいだ。
あの自転車屋のおっちゃんも、もう店を閉めている。
くそぉ……今度あったら割引きしてもらうからな!!
素早く直して貰ったくせに、遅刻したからという、勝手な理由で店を睨みつけながら、自転車を漕いでいた。
「あ…」
ふと、見上げた先には、さっきパンクした時に見かけた女だった。
ロータリーの電灯に照らされながら、あの子はレンガ模様のベランダの縁で腕を組み、顔を埋めている。
何してるんだ?
単純に気になった。
こんな夜に、一人でベランダに出て、顔埋めてるって…。
虐待か…?
俺は、そっと自転車から降り、彼女がいるベランダへと近づいた。