あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
するとスッキリとした、小鳥の囀りように高く綺麗な声が聞こえた。
歌声だ。
今度こそ、本当に。
顔を埋めているからハッキリとは聞こえないはずなのに、確かに聞こえる透き通った美しい声。
「……───あなたはどんな大人になるのかな…」
「───大きくなっても ずっと笑っていてね…」
「───私の大事な宝物…………」
微かな声しか聞こえないのに、何故か俺はその歌声に心を奪われた。
真っ暗な夜の世界が、一瞬にして光を放ち、輝き始める。
軽く縛っている艶がかった髪はそよ風でふわりと揺れ、同時に彼女は顔をあげた。
こちらを見て、ゴキブリか何かを見つけたかのように、目を見開いて驚いている。
何を見つけたんだろう。
そう思って後ろを振り向くも、ロータリーを囲むようにそびえ立つただの細い木のみだ。
そこでようやく俺は、自分がここにいたから彼女は驚いたのだ、ということに気が付いた。
バタバタと家に入ろうとする彼女。
虐待じゃなかったのか、と胸を撫で下ろそうとしてから、またその考えがズレていることに気が付く。
「あ、なあ!」
そう呼んでも、まだパタパタと靴を脱ぐ音がする。
二階にいるため、さすがに下から彼女の姿は見えない。
「い、今の歌!めっちゃいい曲やな!!
俺、聞いたことないんやけど、なんていう曲なん?」
咄嗟に言葉がでていた。
あんな奴、どうでもいいはずなのに、何故か俺は引き止めていたのだ。
すると彼女は立ち止まったのか、戸を開く音はしない。
「…………お母さんが作った子守唄だから…」
「え、あ…」
ガラガラっ、ピシャ!
『そうなん?』という前に閉められた。
でも、彼女が答えてくれたことが何故か嬉しくて、なんだかフワフワした気分でそのまま家に帰った。