あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

私たちは海についた。
砂が靴の中に入って、ほんの少し痛い。
去年も、寒い中ここへ来たな、と思い出す。

太陽が海を照らしていなくても、私には輝いて見える。
それはアズちゃんも同じだろう。

「アズちゃん、どうして今日ここに来ようって言ったの?」

そう言うとアズちゃんは「えっと…」と、辿ってきた道に視線を向ける。

てっきり、私が海を好きだということを知っていたからだと思ったのに、言葉をにごされた。

「…あ!あだし、先帰るね!」

「え?一緒に帰るんじゃあ…」

「キホぢゃんは、こごにいでね!」

アズちゃんはそのまま手を振って走り去ってしまった。

ここにいて、と言われても。
一人でこんなところにいて、どうしろと言うのだろうか。

すると「キホぢゃーん!」と言う声が、私の辿ってきた道から聞こえてきた。

それはもちろん、私の大好きな声で。
愛しい人が息を切らし、軽く曲げた膝に両手を付いていた。
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