あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
───進み出して知った。
道に出てみてわかった。
それは、私たちの知っている街じゃなかった。
亀裂の入った地面。
浮き上がったり、陥没しているマンホール。
剥がれ落ちた瓦や壁。
崩れた塀。
散乱したガラス。
外に溢れかえった人々。
地震の規模がどれほど大きいものだったかということを物語っていた。
いかに人間が、利便性のために作り上げた世界に負荷がかかったのか。
見ればすぐにわかった。
ゆっくりと、恐怖で怯える人で溢れた道を進む。
「あ!アズっ!!」
カクが走り出す方向に目をやる。
恐ろしい光景以外の何ものでもなかった。
頭から、アズちゃんの背負うランドセルの色と同じ色をしたものが流れ出ており、気を失った様子で倒れていた。
「…いや…嫌だ!アズちゃん!!」
認めたくなどなかった。
いとも簡単に、自然の力に屈してしまった私の大切な友達。
「救急車!だれが、救急車呼んで!はやぐ!」
涙目のカクが周りに向かって叫ぶ。
パニック状態の人々が集まってきて、あれやこれやと騒ぎ出す。
それはここだけではない。
あちらからも、こちらからも、『だれか』 『助けて』と。
普段なら使わないような言葉で包まれていた。
すると、携帯から鳴る、私たちの恐怖をさらに煽るような機械音が様々なところから聞こえてきた。
「お、大津波警報!?」
「大津波警報だ」
「え?大津波警報?」
ガヤガヤと騒ぎ出す人達。
一斉に海の方を眺める。
しかし、津波が発生したようには見えないほどの静けさだった。
「本当に来るのが?」
「そらより、あっぢの人ら助げねぇど!」
「念の為、高台さ登っておくべ」
皆、それぞれバラけて行った。
もちろん、私たちを放っておけない優しい大人たちも大勢いた。
津波と言っても、一昨日、津波注意報が出たそうだが、ある計測地点では六十センチほどだったそうだ。
私はまた見縊る。
「アズ!死ぬな。キホぢゃんの誕生日会、まだしてねぇだべ!」
救急車は依然として来ない。
現実に目を背けたくなった。
どこが震源地とか、震度がいくらとか、今何時かとか。そんなこと、考える余裕すら与えてくれなかった。
「ああ!余震だ!」
「皆!はやぐ建物がら離れで!」
「危ねぇ!瓦が落っごちでくんぞ!」
「きゃあ!」