あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
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今日は下のコースと変わらない六時間授業。
かったるい授業をようやく終わらせた。
空を泳ぐ雲は、綺麗なオレンジ色と淡い藍色のグラデーション。
また、いつもと何ら変わりない坂を下る。
今日は、昨日のように坂に身を任せることはしない。
慎重にブレーキを引いて路地を通り過ぎた。
その少し先にある塾も通り越し、駅のロータリーに差し掛かる。
自転車屋のおっちゃんに昨日の事の文句を言おうと思ったが、中にいるのかわからないが、表にはいなかった。
さすがに大声をあげてまで文句を言うつもりはない。
ふと、自然に顔を上げる。
あのマンションの二階のベランダに、また、あの子はいるのだろうか。
……いやいや、俺ホント、何期待してんだよ…。
自分で地味なツッコミをいれながら、マンションの目の前を通過しようとしたその時。
ガラガラッ…カラッ。
聞き覚えのある音。
パタパタと音がした。
あの子だ。
髪を軽く縛っていて、瞳は大きい。
今日は無地でクリーム色のパーカーを着ている。
サアァ───…。
ホースから出てくる水の音が、何故か俺には、自分の中にあるどこかフワフワしたような、少し苦しいような、嬉しいような。
そんな音と似ているような気がした。