あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

濁流の中、されるがままに進んでいく。

今度は波に持ち上げられた。
その勢いのまま、明るい方向へ顔を出そうとする。

バキバキバキ、という音が聞こえた。
必死で何か板のようなものに掴まった。

一瞬息をする。
鼻が痛い。
咳もした。
吐きそうになった。

人の声も聞こえた。
そこに行きたかった。

でも、何故か、そこに行く力はない。
頭がまわらない。
酸欠なのか。

……ちがう。

右脚が。
痛いどころの話ではなかった。

頭がぼうっとしてきた。
板につかまったままどんどん流される。

カクはどこへ行ったの?
皆大丈夫かな。

…まだ。
まだ伝えていないことはたくさんあったのに。


死に……たく………な……───。



地獄絵図の中で私の意識は途切れた。
< 87 / 240 >

この作品をシェア

pagetop