あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。


あの子はまだ気が付かない。
君を見ていることに。
こっちを見てほしい。
話がしたい。

君の名前は何?
どこの学校に通ってるの?

色んな事を話したい。
聞きたい。

パタパタと、靴を脱ぐ音がする。

届かぬはずの手が、無意識に彼女がいるベランダへと伸びていく。

言いたいことがある。
なのに、喉元に引っかかって出てこない。
言わなきゃ伝わらないのに。
ここにいるって分からないのに。

カラッと網戸が開く音がする。

「ま……待って!!」


ギリギリになってようやく喉元の異物が少しだけ外に出た。

「……………」

扉を開ける音はしない。

「あ…のさ!」

ガラガラガラッピシャ…。

「………」

結局無視かよ!
もういい。こうなったら意地でも話す。

謎の決意を決めた俺。

イライラしていた。

でも、どうして?
ムカつくし、どこか寂しいし、苦しい。
モヤモヤとした異物が喉元から心臓に渡って広がり、吐き出したくても吐き出せない。
どうしてこんな感情が出てくるんだ。



もしかして。これが。みんなが既に、当たり前のように、経験してきた〝恋〟というものなのだろうか…。

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